聖なる夜に

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桜の部屋の前。 チャイムを鳴らすが、反応は無かった。まだ…戻ってないのか? 俺は鍵を取り出す。 震える手で、鍵を開けた。 「何……だ?」 いつも明るく俺を待っていた、かわいらしい部屋が。 何も無い。 本気で……本気で決めていたのか? 今日別れ、俺の前から姿を消すと。 カーテンも外されてしまった窓から、街灯の光が入り込んでいる。 二人で座ったソファも… 一緒にご飯を食べた、あのテーブルも。 かすみ草のドライフラワーも。 何もかもが無い。 俺はその場に崩れ落ち、ただ途方にくれていた。 こんなにもあっさりと、俺の前から消えてしまうなんて。 ここにいても仕方がない。 誰の目から見ても、明らかだと思うよ。 それなのに、動く事ができなかった。動く気力が無いんだよ……。 頭の中は『どうして』ばかりで。 大切な人が目の前から消え、これ以上何もできない無力さに……焦りとか、絶望とか。 そんな言い知れない感情だけ、俺の中にある。 いや……。 これは感情なのか? それすらわからない。 ただ空が白んでくるまで、寒い部屋でうずくまっていた。 桜の事を考えながら。
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