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幸子なら、どちらも折れないから口論になる。
それから逃げたんだ。俺は。
俺、桜から学んだ事がある。
何かを始めようとする時、遅いとか早いとか…オヤジだからとか。全然関係ないんだよ。
俺は、明日死んでもいいと思えるぐらい、後悔しない人生を送りたい。
あと30年は生きるつもりだけど、その間…満足した日々を過ごしたい。
言いたい事を言わないままじゃ、成仏できないよ。
「何よ、急に」
不機嫌そうに俺を見る。
この反応を怖がっていたとは、俺もずいぶん小者だったな。
「いやなぁ…ちょっと、その。アレだ、アレ」
やっぱり、幸子を前にすると…腰が退けてるよな。
「おかしな人ねぇ」
そう笑い出した幸子に、ドキッとした。
桜の笑みに似ている。
「あ……」
顔こそ、桜の方が美人だが。幸子もそれなりに、モテる部類にいたんだった。
この柔らかな雰囲気。桜と幸子…同じなんだ。
もう20年以上も一緒にいて、馴れ合ったおかげで、すっかり忘れていたけど。
幸子も自身、そんな柔らかな雰囲気を持っている事すら忘れていそうだ。
付き合いはじめの頃、幸子も初々しかったんだよ。桜のように。
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