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『キモイ』
騒音で聞き取れなかったが、唇の動きがそう言っていた。
こんな小娘(しかも可愛くもない)に、キモイと言われるとは。
俺は当たりを消化すると、トイレに立ち上がった。
隣の若い女は、ツンツンしている。
おいおい。お前が思ってるほど、お前は『イケてない』んだからな。
トイレを済ませ、手を洗おうと鏡の前に立った。
昔は色男と言われた俺。
今は疲れきっていて、髪もボサボサ。ザ・オヤジと言いたくなる服装。
そしてメタボリックな腹。立派な中年オヤジだ。
昔の面影はなく、幸子の影が俺と重なる。
二人とも、すっかり変わってしまったな。何の魅力もない、ただの中年夫婦だ。
俺は改めて見た己の姿に、心底嫌気がさした。老いていくのは、男だって嫌なのだ。
これじゃ、幸子の事も大声では言えないな。
腹を叩くと、ポンといい音がした。
あいつがカバなら、俺はタヌキか。
だけどな、健康のために痩せようとも思わない。こんな体型だが、健康診断の結果は、いたって良好。
それに、俺が太っていたって、誰も気にも留めない。誰も俺を見ていないのだから。
俺は台に戻ると、淡々と単純作業を繰り返した。コインを入れ、レバーを叩き、ボタンを押す。
それを数千回繰り返した。
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