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今までいろんなバーに行ったが、こんな風にカクテルのうんちくを教えてくれるバーテンは居なかった。
もっとも、純はバーテンではないが。
「どうして、カクテルに詳しくなったの?そんなにカクテルが好きなの?」
カクテルを作るのが好きとか、バーテンがかっこいいからとかかな。
「カクテルが好きなわけじゃないよ。酒より、こっちが好きですから」
また、チョコを一粒。
「……マルガリータ・カクテル。知ってる?」
それもオーソドックスの部類だ。もちろん知っている。
「マルガリータは、1949年のカクテルコンクールの入賞作品なんだ。
その創作者の恋人の名前が、マルガリータだった。
ある日二人は、狩に出掛けたわけだが……。マルガリータは流れ弾に当たって、死んでしまった。
創作者の腕の中で……ね。
で、彼が彼女をしのんで作られたのが、マルガリータ・カクテルってわけ」
そこまで話すと、フッとため息を吐いた。
「それを知ったのが、ハタチの時。それまではさ……俺にとってのカクテルは、女・子供の飲み物。
酒じゃない。
でもな、違うんだよ。
名前の一つ一つに想いや洒落や、イメージがある。
それにレシピが一つ違うだけで、別の呼び名になったりするんだ。
例えば、このソルティ・ドッグだって、ノン・スノーにしてしまえば『ブルドッグ』って名前に変わる。
なかなか面白いだろ?」
お世辞ではなく、本当に面白いと思った。
私が知らないだけで、カクテルは深い物だったんだなって。
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