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テーブルの下に目をやると、ミルクチョコの袋があった。
本当にチョコが好きなんだな……と、二粒手に取る。
「貰ってくわ。またね!」
笑顔で手を振り、ドアを閉めた。
玄関には、私と純の靴が乱雑に脱ぎ捨てられている。相当燃えたぎっていたのかしらね。
カバンの中から車の鍵を取り出し、玄関を出てハッと気付く。
昨日、タクシーで来たじゃない。参ったな。
歩けない距離だけど、無性に歩きたくなって家に向けて足を踏み出す。
チョコを一粒、口に入れる。
私は……
どうしたら相手が私に手を出してくるか、それはわかっている。
だけど、世間一般でいう【普通の恋愛】の仕方は忘れてしまった。
それに私は【29歳の独身女】で、普通の独身男からしたら重たい年齢になっている。
結婚がリアルな年齢だから。
もし、私が誰かを好きになって、気持ちを伝えてもうまくいかなかったりしたら。
相手が私の年齢で躊躇しているのがわかってしまったら。
私は……私自身を否定されたような、惨めな気持ちになるだろう。
だからいいの。
【都合のいい女】で。
そうやって作った傷の方が、私は痛くないもの。
二粒目のチョコを口に入れてわかる。
やっぱり私には、チョコは甘すぎるの。
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