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生活感の無い我が家。
その白い壁に、カレンダーがかかっている。
仕事の予定に紛れて、青い丸がついた日付を眺めた。
5月の上旬のその日は、私の29歳の誕生日だった。誰にも教えなかったから、一人でその日を過ごした。
昔からの友達からは、おめでとうメールが来てたっけ。
28歳から29歳になった途端、見える世界の色が変わったような気がする。
景色の色だけが濃くなり、人々は色あせて見えるよう。
特に中高生なんかは、透けて見えるようだ。よく見えるのは、疲れた中年と……夢を失った主婦。
その中に、愛を失った私がいる。
生活の為だけに。ただ死ぬ瞬間に向かって生きているだけに、日々を過ごしている。
私は何を夢見ていたんだろう。それすら思い出せない。
歳を重ねる度に、少しずつ夢を捨ててきた。29歳の私には、何が残ったのだろうか。
手に入れた物はある。
それは、仕事での地位。
でもね、これ以上は上がることはないだろう。
私は女だから。
女は結婚して子供を産み、余生を家族のために生きる運命があるから。
会社にとって、独身の女の私は……扱いづらいのかもしれないね。
家の中には、常に女が居なきゃいけないのかな?
『嫁』という漢字を見ると、嫌な気持ちにしかならない。
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