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「しかし……、そのジェイクがいなくなって困ったこともまた存在する」
「ん?悪党がいなくなって困ることがあるのか?」
アルフレッドはソファーに座りなおすと、ふうと左手で前髪をすく。
そうして改めて俺に視線を向けると、質問に答えた。
「彼は悪党である前に、それなりに有能な……いや、事実、非常に有能なトップでもあったのさ」
ああ、と。
そう言われて、思い出す。
ジェイク・デルタ。彼こそがこのS・A・Dの創立者であり、統率者。
これだけ大規模な組織だ。有能な統率者なくして纏まるはずもない。
ましてや、今まで統率者だった人間が、罪を犯して去ってしまったとなれば、少なからず組織内での混乱も起きるだろう。
今目の前で物憂げな表情をしている彼が、どれほどの心労を患ったかは想像に難くない。
「彼がいなくなって、当然S・A・Dには代わりの統率者が必要になった。もう察しているとは思うが、それが僕だ。しかしね、統率者と言うのはトップであるだけあって、それなりに忙しいのだよ」
だから――、と。再び彼は左手で前髪をすく。
癖か。それはお前の癖なのか。
キザったらしくて正直うざい。言わないけど。
「元々僕の役職であった、S・A・Dの戦闘部隊、【黒き制裁者(ブラック・パニッシャー)】……ああ、黒服達のことだが……その総隊長を務めるだけの時間がなくなってしまったのさ」
S・A・D戦闘部隊……、その総隊長。
成る程。あれだけの人数と力を誇る魔力持ち達のトップに立てるのは、ミリアをして最強と言わしめたSランク、Mr.Aたるアルフレッド・アッシュフォード以外、適任など存在し得ないだろう。
今彼を悩ませているのは、その後釜となる人物を探さなくてはならない、と言うことだろうか?
「それでだなっ!」
と、そこでいきなり、今まで沈黙していたミリアが待ってましたとばかりに声を上げた。
「その総隊長に相応しい人間を――」
「まあしかし、漸く僕の代わりに総隊長が務まりそうな人間が見つかったから、良かったのだけれどね」
「――は?」
「ん?」
ミリアとアルフレッドの声がハモり、お互いが不思議そうに顔を見合わせる。
「見つかっ……た?」
と、ミリア。
「うん。何とか、ね。彼なら大丈夫だろう、と言う人間が一人だけいる」
と、アルフレッド。
「待て待て待て!!そんなの私は聞いていないぞ!!」
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