短編その参:シャドウダンサー

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「思い上がるな、小娘」 アストロの、低い、力の込もった声。 それに続いて。 「そーダっ!笑わせんなよ、女ッ!」 「多勢に無勢とはまさにこれだぜ、ギャハハハハッ!」 未だ健在の20近いアストロの『ブラザー』が、一斉にその下品な笑い声を上げた。 「……」 対し、ミリア。 屈辱を感じるでも悔しさを滲ませるでもなく。 ただ、耳障りだと言わんばかりに顔をしかめた。 「ふ……、久しぶりに我がブラザーと意気投合が出来そうだ。感謝をしておくべきかな、アウストラ」 「戯れ言を。弱者が意気がるのは滑稽に見えるぞ、小わっぱ」 その言葉と同時に、ミリアが『両手』でカマイタチを構え、アストロに向かって駆け出す。 「潰してやるよ、ヒャーーーハァーーーッ!」 瞬間、彼女の正面。 アストロとミリアの間に割って入るように、一体の影。 「邪魔だッ!」 一閃。 カマイタチの一太刀にて、それを両断する。 「――鬱陶しい」 次いで、左右。 彼女の両脇へ、挟み込むようにして更に二体。 「エア・プレス」 が、ミリアは動じない。 『鬱陶しい』、その言葉通り、ただ目障りな羽虫を蹴散らすがごとく、超圧縮した空気の塊にて、その二体を地面に押し潰した。 その間、彼女は剣すら振るわない。 視線すら向けず、ただ念じるがだけで、アストロの分身を撃退した。 「――ッ!」 しかし、影達の攻撃はまだ止まない。 再び正面。 今度は4体同時。 「何体来ても同じことッ!」 振るわれる刃。 巻き起こる疾風。 引き裂かれる影四つ。 そして―― 「な……ッ!」 『五体目』の、攻撃。 「――……ッ」 正面に意識を集中させてからの、別方向からの闇討ち。 五体目の攻撃は背後より。 ミリアの完全な、意識外からの攻撃。 「貰ったぜぇッ!」 「くぅッ!」 ドスンと、鈍い衝撃音が響き渡る。 ブラザーの飛び蹴りが、見事ミリアの後頭部を捉えた。 「……ッ」 揺れる脳。 ふらつく視界。 一瞬だが、ガクリとミリアの身体がふらつく。 「単純な力勝負では、確かにアストロは勝てない」 「……」 いつの間に新しい紅茶を入れたのか、アルフレッドはティーカップに口をつけながらそう呟いた。 「事実、アストロのブラザーが100体束になったところで、正面からでは彼女には勝てない」 揺れる彼女の身体に、更に三体の影が飛び掛かる。

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