癒えない傷を抱えて

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そんなこんなで久しい再会の時間を皮肉な言葉で埋めながら歩き、南也が眠る真新しい墓に着くと二人並んで手を合わせる。  墓地は異様に涼しかった。あれほど暑かったのが嘘みたいに涼しいのは、都会の喧騒から離れているだけが原因ではないだろう。墓地を囲うように植えられた木々、微風に香る線香・・・。 「・・・くっ・・・。」 手を合わせて暫く経つと、隣から小さな声が聞こえた。聞こえない振りをしたかったのだが、すぐ隣にいて知らん顔など出来る訳がない・・・南夏は薄目を開けて隣の炎似をこっそり窺った。  案の定、彼は泣いていた。彼の涙は数える程しか見た事がなかったのだが、姉が死んでからの墓参りでは毎回泣いていた。  僕は葬式でしか泣かなかった。もちろん今も悲しいことに変わりはない・・・それでも、僕は泣かないと決めている。炎似が安心して泣けるようにと・・・。 「南也さん・・・っ」  嗚咽を殺して泣いていた炎似、大きく震えたかと思えば搾り出した声で妻の名を呼んだ・・・その苦しげな声を聞いて不覚にも僕まで涙が滲んだ。 「・・・炎似。」  いつになく優しい声で、僕は静かに泣く男の名を呼ぶ。名を呼ばれれば、痙攣したかのようにビクッと肩を竦めて炎似は南夏に視線を向ける。  向けられた炎似の漆黒の瞳は涙に濡れていて、それは普段とまるで違う打ちひしがれた姿だった。 そんな親友の為にできることを懸命に考えたのだが、思うより先に動いたのは体。 「・・・南夏?」 震えながらも動揺を含んだ炎似の声。それが僕の耳元に聞こえるのは僕が炎似の腕を引っ張ったから・・・不自然に前のめりそうな体勢のまま、炎似は僕の突然の行動に驚いているようだ。 「泣くなら姉貴に見えないように泣け。」 我ながら無理矢理だと思った。いつまでも亡き妻だけを想って悲しむ炎似を僕は見たくなかったんだ・・・南也・・・否、姉貴もきっと炎似の泣き顔よりも笑顔が見たいに違いない。 「南夏っ・・・。」  囁きほどに小さく掠れた声で呟いて、炎似は南夏にしがみ付いた。糸が切れたように泣き崩れる炎似・・・南夏は自身に覆い被さって震える炎似の広い背中を優しく撫でてやった。  そして炎似の背中をあやすように叩きながら、南夏は沈みそうな太陽を一瞥する。 僕らを染めようとしている光は僕の赤い髪を更に赤く照らし、涼しい風は僕に線香の香りと炎似が纏うシトラスの香りを運んできた。
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