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そうしてどれくらい経っただろうか?短くも長くも思える時間、僕は服を炎似の涙で濡らしていた。
流石にもう涙は枯れてしまったのだろう、炎似は身動きせず僕の肩に頭を乗せていた。
「おい、泣き虫炎似。」
中々離れようとしない炎似に、呆れた声で南夏は呼びかける。
呼びかけに応じて、のろのろ顔を上げた炎似の顔は目の下を赤く腫らしているうえに顔全体が赤く火照っていた。
「その・・・ゴメンね、南夏。」
どうやら気恥ずかしいようで、その視線は頼り無く中を漂う。
「謝る前に、その汚い顔をどうにかしろ。」
またもや皮肉が口を突いて出る。汚い顔と言っても、炎似の整った顔は涙に汚れても尚憎たらしく綺麗で・・・僕も造作自体は悪くないはずだが、どうしたことか全くもって冴えない。元より感情表現が苦手であるため、尚更敬遠されるタイプだ。
「・・・ありがとう、南夏。」
懐から白いハンカチを取り出して手荒に顔を拭った炎似、憑き物が落ちたかのような清々しい笑みを浮かべて南夏の赤髪を撫でる。
南夏は皮肉に笑顔で返されて、反応に困ってか溜息ついてそっぽを向く。そして、大きく暖かな炎似の手を自身の頭の上からどかし、墓前から立ち去ろうと踵を返した。
「・・・南也、来年こそは笑顔が視れたらいいな?」
去り際に墓を振り返って、南夏は安らかに眠る姉へと言葉を投げる。
・・・僕達はいつになったら明るい墓参りが出来るのだろうか・・・それほどまでに、失った存在は大き過ぎた・・・
お互い悲しみを振り切るように、黙々と墓場を離れて喧騒に身を投じるのだった・・・。
―――ニャー・・・ニャー・・・――
妙に不安を掻き立てる、子猫の鳴き声。
あたかも行く末に抱く不安を表すようで・・・あの鳴き声を聴いていると僕の心は今、不安で占められている事を否応無しに自覚させられる。
デジャヴュ 既視感
この感覚は?
こんな体験したことあるはずないだろう?
夢の中で問うても答えは見つからず、奇妙な夢は加速的に覚醒へ移る。
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