きみを知った、あの日

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「はぁい、席につけぇ!!今日はこの専科に転校生がいるからな。みんなちゃんと話聞いてやるんだぞ。」 彼が先生に続いて教室に入ると、みんながざわついた。 「はじめまして。えっと…アメリ…イギリスから転校してきました、野乃原アシュレイです。イギリスの大学を卒業してきているので、年齢はみなさんより年は上になりますが、仲良くしてください。よろしくお願いします」 ハーフなのぉ!?と目を丸くさせて聞いてくる女子とか、睨みつけてくる男子とか、いろんな人がいるみたいだ。 彼は、一番窓際の後ろから2番目の席に仕方なく座った。 そこしか席はあいていなかったし。 後ろに人がいるというのは、本当は彼にとって苦手なこと。 だって、緊張したり、驚いたり、怒ったりすると、隠してるしっぽがたまに出てきちゃうから。 耳もだけど... (「隠してるのって結構疲れるんだよね。 あぁあ。」) でもまぁ、仕方ない。 20まで猫の世界で育ってきたから社会勉強してこいって、母さんに追い出されて来ちゃったんだから。 唯一隠せないのは、色素の薄い茶色い髪と、紫色の瞳と、あと爪の伸びが早いこと。 人間界にいる時は、毎日とは行かなくても、3日に一度は切らないと。 とても面倒だ。 (「とりあえず、おばさんの家にお世話になってるばかりじゃなんだから、バイトでも探そうかな。」) 彼はそんなことを、ぼぉっと窓の外を眺めながら考えていた。 「はい、そろそろ静かにして、授業始めるぞ。テキストのP162をひら………」 (「勉強も面倒臭いなぁ。 動物界ではイヤってくらい動物医学は勉強してきたから、 ここでも動物医学科を選ばなくてよかったよぉ。 まぁ、人間学科って面白そうだし、テキストに目通しておこうかな。」) (ツンツン) 後ろからシャーペンか何かでつつかれた。 「やぁ。おれは猿島哲平(さしまてっぺい)。てつって呼んで。きみ頭良さそうじゃん!色々教えてねっ。」 「はぁ...」 彼のガキっぽさが小声でも伝わってきて、アシュレイはそのテンションにどう合わせていいかわからなかった。 でも、さっそく友達が出来そうで良かったと、アシュレイは少し安堵の表情で彼に微笑んだ。 「ぼくのことはアッシュって呼んで。」 自分の呼び名を人間界で紹介したのは、これが初めてだった。
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