きみを知った、あの日

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「お~い!!アッシュ!」 次の授業の教室に移ろうと中庭を歩いていると、遠くの方から大きな声で自分を呼ぶ声が聞こえた。 振り返ってみると、自分を追いかけて来る哲の姿が見えた。 (「あ、危ない!!」) 哲の視界に入らないところで、女の子が友達に手を振って別れの挨拶をしている。 そのことに哲は気づかないようで、走ってこちらへやってくる。 このままでは二人は衝突しそうだ。 アッシュは哲に女の子がいることを知らせようと、女の子を指差し合図をしたが… ...ドン!! 「あぁ、やっぱり。」 哲とその彼女はぶつかってしまった。 彼はそこへ駆け寄り、まず、膝を抱える彼女の手をとり立たせてやった。 「大丈夫?」 「ありがとうございます。」 「ほら、哲も立って。」 しりもちをついたのか、おしりをおさえる哲に手を貸た。 「ごめん。君平気?」 「はい、少し擦りむいたくらいですから。」 彼女は膝下の土を落としながら優しく笑った。 「擦りむいたの!?だめだよ!!保健室行こう!アッシュもついてきてくれるよな?」 「え、ぼく授業…」 すると、哲が彼の手を引き、耳元で女の子苦手なんだよ、と小声で言ってきた。 彼は王室育ちだし、レディーファーストに対してはちゃんと躾けられてきたが、 ぶつかったのは自分だろ、と彼は言いたい様子だった。 そのやり取りを見ていた彼女は申し訳なさそうに、 「私は大丈夫ですから。ほんと、気になさらないで。アッシュさん?もまだ授業があるみたいだし。」 そんなことを足から血を出しているにも関わらず、さらっと微笑みながら言われては、放っておけるわけがない。 結局、哲とともに、保健室へ行くことになった。 転校初日にして、授業をサボった。 (「面倒だな。まあいいか。」) 「痛いっ!!」 歩いていると、彼女が転んだ。 「ごめんなさい。足を挫いていたみたいで。」 哲が腰を痛めていることを気遣って、自分が彼女を負ぶっていくことにした。 アッシュは彼女の前で腰をかがめ、 「負ぶっていくよ。それじゃ歩けないだろ。はい」 申し訳なさそうにする彼女に微笑みかけた。 (「よいしょ。この子軽いなぁ。それに…すごくいい香り。」) アッシュは、彼女が軽いことと、女の子らしいシャンプーの香りに、少しドキドキしていた。 そのドキドキは、保健室に着き、彼女を背中から降ろした後も、治まることはなかった。 治療も終わり、彼女と別れてからもずっと...
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