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『なあ…帰ったら、何してくれる?』
もう一言も聞き逃すまいと、意識を集中させる。
愛しい、武の声。
嬉しい時
悲しい時
辛い時
幸せな時…
いつも…聞いていた、声。
「まず、殴る」
『はは、それで?』
「…その前に、お帰りって言う」
『うん』
束の間の、幸せな時間。他愛ない会話が、嬉しかった。
「そんで…キスしてやる」
『隼人から?』
「…言わせんな」
『あははっ』
同時に言葉が切れ、一瞬、間が空くと。そろそろ、終わりに近付いてる事が、感覚で分かった。
「…武」
『ん…?』
もうだいぶ瞼が下がってきてる。早く、早く言わなければ…
「Ti amo」
『ん、ああ…ありがとな』
「それから…
Arrivederci」
その言葉を最期に…オレはぱたりと横に倒れ、目を閉じた。意識が途切れる直前、手放した携帯の向こうで、人の倒れる音が、聞こえた気がした。
(次に目が覚めたら、武に…お帰りって、言おう)
――最高の、笑顔で…
end...
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