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花火
「花火なんて嫌いよ」
見晴らしのいい高台にある神社の端の方に腰掛けて、僕らは打ち上げ花火を見ていた。
「……どうしてさ?あんなに綺麗じゃないか」 いい雰囲気になっていたはずだとすっかり思っていた僕は焦った。
「ええ、綺麗よ、確かに……でもね、一瞬で消えてしまうんだもの」
僕はうまく言葉を返せなくて、気持ちがはやるばかりで、なんともいえない沈黙が続く。
次の花火はまだ準備しているところなのか、辺りは暗くなっていた。
さっきまでは気づかなかった、遥か下方からの遠い喧騒が聞こえてくる。
僕は意を決してとにかく何かを言おうとして君の方を向いた。
そのとき、ひゅるるる、とどこか間抜けな音とともに、特大の花火が連続で打ち上がった。
辺りが光に包まれる。
「 」
君の口が動いていたけれど、花火の音にかきけされてしまいよく聞こえなかった。
聞こえなかったけど、いまだ打ち上がる花火に照らし出された君の顔はとても幸せそうに見えた。
おわり
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