第一声

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その時、既に腹の大きかった怜の母親は優しそうな笑みを携えながら汚い黒猫を指差した。   ――ねぇ、この子を連れて帰ってあげましょう?――   そう言った。   半信半疑ながらも、シーナは連れて帰られた。   そして、その日の間宮家の晩ご飯になるはずだった焼き魚、それも二匹、食べさせて貰った。   腹が膨れた所で満足している時、体を洗って貰いながら怜の母親とシーナは ―怜の母親が半ば一方的に押しつけたものかもしれないが― 一つ約束をした。   私達は貴方を飼わない。   だから自由に出入りしていいの、   その代わり、   私達を怖がらないで?   ――シーナは初めて感じた優しさに、体を震わす事しか出来なかった。   その後シーナは度々間宮家を訪れた。   そして、1シーズン程経ち、怜が産まれたのを心底喜んだ。   悲劇が起こったのは怜が9歳の時。   未だに鮮明に蘇る記憶。   シーナは、怜の両親を   殺したのだ。       カタン……   その時、シーナは物音で目が覚めた。   それは、寝こけていたシーナの目の前に食事の入った皿が置かれる音だった。   「……ほらよ、クソ猫。」   あれから7年間。   毎日欠かさず間宮家に来るシーナ。   そして、そんなシーナに欠かさず食事を出してくれる、怜。   シーナは改めて感じた優しさに、声には出さずに感謝しながら食事を頬張った。   そんなシーナを見届けてから、怜も自分の食事に手を付けた。
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