ハートのエース

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過ごしやすい春の暖かさは、初夏独特の蒸し暑さへと変化を遂げた。 今朝のニュースによると今日は猛暑。その暑さの原因である太陽も、心なしかより一層輝いている気がする。 暑さで衰弱していく生物に対して、少しは気を遣ってもらいたいものだ。 規則的なチョークの音が教室に響く。黒板に書かれた白い文字を静かにノートに書き写すクラスメート達。その様を俺は俯せながら眺めていた。 耳を澄ますと、チョークとペンの音以外にも別の音が聞こえる。携帯のメールを打ち込む音に、それを受信する別の携帯の振動。 送った男に受けた女。そいつらは互いに顔を見合わせ、赤くした顔で微笑みを交わした。 これらが単体ならば気にするのだろうけれど、この光景は、このクラスのほとんどにみられる光景だから全然気にも止めない。 “ハートのエース”。 この名前がクラス、二年A組のもう一つの名前だ。 その由来は、俺を含めた六人。それ以外のクラスメートが、揃いも揃って皆カップルだからだ。 男女の数が等しく二十人ずついる中で、奇跡的にも十七組のカップルがいる。言い直そう。奇跡だ。
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