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「マサヒコ、どうした?」
暫くそんな状態が続いていると、その少年――マサヒコの父親と思わしき人物が内風呂からやって来た。シンジは益々泣き出すマサヒコに怒りを覚えた。
「おい、そこの。うちの子に何をした?」
マサヒコの父親は周りの眼も気にせずシンジに詰め寄って来た。だがシンジはそれに怯まなかった。
「ご子息が、罪を犯すのを留めただけですよ」
シンジはそう説明した。だがマサヒコの父親はそれでは納得が行かなかったらしい。今にもシンジに殴り掛かって来そうだった。
シンジは寧ろ感謝して貰いたかった。マサヒコ少年があのままヤモリの命を完全に奪う行為をした場合、その罪は何れ自分に返って来るだろう。それをヤモリも助け、少年も助け、シンジはベストを尽くしたのだ。寧ろそれを知ってか知らずか放置していたこの父親にも罪が有ると言えた。
「何を訳が分からん。マサヒコ、行こう。こういう人には関わったらいかん」
「うん」
マサヒコ少年とその父親は最後にこちらを恨むような眼できっと見ると、そのまま露天風呂から去って行った。
シンジは不思議な後味の悪さこそ感じたものの、これで良かったと判断した。
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