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帰りの電車も鈍行だ。
ガタゴトと揺られつつシンジは今日の事を振り返っていた。
あのヤモリは無事また元気を取り戻せただろうか? 子どもと言うのは罪を知らない生き物だ。だがそれを一つ一つ滾々と教えてやるのが大人の勤めでも有るとシンジは考えていた。
だから今日の行為はシンジなりの大人としての勤めを果たした事だった。シンジはそれを分かって欲しかった。
別に異常者と考えられても正しいのがどちらかは神は知っているとシンジは分かっていた。
帰りの列車でシンジは外の景色を見ながら、諏訪も良いもんだと感じるのだった。
神宿る地。それこそそこでは清く正しい行為が求められる。
そして今日のシンジは特に正しかった。
何一つシンジは間違っていなかった。
あのマサヒコ少年が、この罪に一早く気付く事をシンジは願い続けるのだった。
それから彼の罪滅ぼしが始まるのだから。
シンジは甲府まで鈍行で揺られて、そこからまた先も鈍行に乗り込む為に列車を待つのだった。
辺りはすっかり闇に呑まれ、シンジはその中で、駅の柱を動く物を見た。それはヤモリだった。まるで露天風呂のヤモリと同じとは思えないが、きっとシンジに同胞の礼を言いたいのだとシンジは判断した。
シンジはそのヤモリをじっと見ていたが、ヤモリは暫しこちらを見た後に、そのままシンジから眼を逸らし、駅舎の上の方に向けて昇って行くのだった。
だがシンジにはそのヤモリの行動に自分への謝意を感じ取っていた。シンジも温かい気分になった。
やがて高尾行きの列車が駅に滑り込んで来た。シンジはそれに乗るのだった。
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