夏の奇跡

6/17
前へ
/17ページ
次へ
思いっ切り扉を開いた。 それこそ私の感情をぶつけるかのように。 でも、次に私を襲ったのは衝撃。 「沢井……さん?」 教室の窓側の隅。自分の席で、沈んでいく太陽を背に驚いた表情でこちらを見る。 その頬には夕陽に照らされる雫が流れていた。 すぐに私から顔を背けて、制服の裾で目をこする。 「どっ、どうしたの?忘れ物……とか?」 そう言って、いつもの笑顔。絵に書いたように爽やかな。 でも、今は動揺からか悲しさが見え隠れしている。 「あんた……バカねぇ」 「えっ?」 私は考えるより先に足を動かしていた。そして、慶太の前に来て頭に手を置く。 自分でも何であんな事を言ったのか分からない。気付かないフリをして帰ればいいのに。 きっと、私は根っからの世話焼きなのだろう。 「泣きたいときは、思いっ切り泣けばいいの。それは、恥ずかしい事じゃないわ」 「……さわ…い…さ……」 譫言のように私の名前を呼ぼうとするが、すぐに涙が大きな丸い瞳から流れ落ちてそれを邪魔する。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

293人が本棚に入れています
本棚に追加