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「……か……明日香?」
慶太の呼ぶ声で現実に戻される。
河原には、いつの間にか花火が打ち上がり始めていた。
「ん?何?」
「僕が聞きたいよ。人の顔見てぼーっとしてさ」
つい、思い出に浸っていた。
まぁ……こんな所にいるからだろうけど。
「ごめん。もう、帰るわ」
やっぱり、辛かった。忘れるどころか、より鮮明に思い出してしまっていた。
早く帰ろう。
そう思っていた私の腕を慶太が掴んでいた。
「あっ!いや……その……」
掴んでから困る慶太。
そこは、ビシッと決めるところでしょ。
……なんて心の中で突っ込んでみる。
分かってる。きっと、慶太も同じ気持ち。
迷う必要も、逃げる必要もなかった。
だから今度は私が頑張る番。
私が勇気を出して、一歩踏み出す番。
夏の暑さの、祭りの熱気の、花火の美しさのせいにしてもいい。
それでも前に進む時。
でなきゃ、一生後悔すると思う。
半年間の胸の痛みは幻なんかじゃない。
そう、それは……私の確かな気持ち。
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