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御主人様と過ごした日々は毎日がキラキラとしていた。
とても美しい世界。
そんな中に私と御主人様はいた。
いつまでも続けば良い、心からそう思える日々と言うのはいつか終わりが来てしまうもの。
儚いからこそ美しい。
そういうことなのです。
私がこのお屋敷に来たのは御主人様のお母様が亡くなって暫く経った頃。
その頃私は生まれたばかりにも関わらず前の御主人様に捨てられてしまい生死の淵をさ迷っていた。
食べるものも、住むところも……何もなかった。
ニャァと存在を主張しても人は汚いものを見る目で私を見て、そのまま歩き去った。
動くことも困難になった私は人気の少ない道へ行き体を休めた。
このまま死んでしまうかもしれない、切実にそう思った。
そんな時に、ずっと下を向いて歩く一人の少年。
足取りは重くのろのろとしていた。
今までに見てきた華やかな人間とは違い、私と似た雰囲気を出していた。
彼なら……助けてくれるかもしれない。
そう思って駆け寄ろうとした。
しかし、私の体は限界で。
駆け寄ることはおろか、立ち上がることすら出来なかった。
「ニャァ、ニャァッ」
助けて。
私はここにいるのです。
まだまだ生きたいのです。
助けて下さい。
想いばかりが先走り、思うように声が出ない。
それでも、彼は気付いてくれた。
私のほうを見るとはっとした表情になって駆け寄ってくれた。
「寒いでしょ…お腹も空いてるのかな……頑張って、助けてあげる、死んじゃダメだよ」
彼はその大きな両目に涙を湛えて。
薄汚れた私を胸に抱いてくれた。
暖かい、初めて感じる温もり。
彼は私を抱えたまま走りだした。
もう少し、頑張って、死なないで。
何度も繰り返しながら。
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