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2200年
日本某所―――
そこは暗い部屋、否、空間だった。
灯りがない、というのではない。微量ではあるものの、証明の類は存在している。
しかし、それが自らの存在意義を主張しているかといえばそうでもなかった。正確には、この空間に含有された闇の強さに負けている。
どれだけ強力な火を焚いても、千の蝋燭を灯しても、この闇は駆逐できない。
陰ではないのだ。空間そのものが昏(くら)い。そのような属性を、どのようにしてか獲得するに至った場。
すり鉢状の、コロッセオを思わせる広大な空間。無骨であるがどこかその造りは壮麗で、巨大な城の大ホールに見えなくもない。
そんな空間から音が聞こえる。
音は一つ。ただ、いくつかの音が混じりに混じって、一つの音として耳に届く。
その中央には円卓。大きなホログラム装置。九つのディスプレイ。
声はそこから発っせられていた。
『――現在の状況はどうなっている?』
ザーザーとノイズが混じる。聞き取りづらい。
「現在予定よりも12%遅れで進行中です」
『12%だと?貴様らは何をしている。5%までに抑えさせろ』
「はっ!」
『……焦るでない。12%の遅れなど想定範囲内ではないか』
『そうも言っていられないさ。"約束の時"まで刻一刻と近づいている。多少の無理は致し方ないだろう』
『想定範囲内ならいいんじゃないですか?焦ってもいいことなんて無いですからねぇ』
『確かにそうだ。だが、若い君と違って我等には時間がない。今は一分一秒でも惜しいのだよ』
『まぁ早死にしない程度に頑張って下さい。"約束の時"まであと少しですから、多少の無茶は範囲内で……』
五月蝿くなる会議室。
それを断ち切るかのように、一人の男のが口を開く。
『お喋りはそこまでだ、良い報せが入った。これで我等日本の存在が世界各国にとって大きな壁、絶対に越えられぬ壁となる』
その場にいた全員が手元にあったグラスを手に取り
『我等が日本に、栄光あれ!』
『『『栄光あれ!!』』』
日本国民は知らない。
ここにいる人間のせいで自分たちの平穏な生活が音を起てて崩れ落ちることを……
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