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――戦場。
昔は草木が生い茂っていたであろうその場所は、すでに焼け野原とかし、辺りは人の焼け焦げた臭いがたちこめる。
爆弾の爆撃音や銃声がそこたらじゅうから響く。
耳鳴りがする。
耳栓をつけていても効果はなさそうだ。
そんな死臭たちこめる禍の地に、怒鳴り声。
「おい!
補給部隊のチキンどもはまだ到着しないのか!?」
うろたえる数人の若人。
帰ってきた返事は「まだ」。
目に涙を貯めながらも、必死に訴えてくる。
「ち、中尉……わ、私たちは、国から見捨てられ――」
「黙れ!お国が我々を見捨てるはずがない! 我々は日本のために戦っているのだぞ!?見捨てられてたまるものか!!」
中尉と呼ばれる不精髭を生やした男は部下である若人の声を掻き消すように怒鳴り付けた。
部隊の空気は最悪で、これ以上は無理だと経験がいっている。
本部に増援をよこすよう連絡を入れたのは3日前。それからは向こうからの連絡は一切何無く、いつ敵がまた攻めてくるかわからない恐怖と戦いながら精神と肉体を削り、過ごしていた。
部下である若者たちにも限界が来たようで、動揺が広がり、今にいたる。
「ち、中尉!! 今、緊急通信が……」
通信機をいじっていた男が血相を変えて走ってきた。彼の手には一枚の紙切れ。暗号通信。
「本部からだな、後続部隊はどうなった!?」
「そ、それが。補給部隊、ならびに支援部隊は敵軍の襲撃にあい、壊滅――、と」
「く、くそったれがああぁぁ!!」
まだ支援・補給部隊が来るかもしれないと期待していた。
支援部隊が到着してこの絶望から自分たちを救ってくれるのだと信じていた。
唯一の頼みの綱が切れた。
もう自分たちには『死』しか残っていない。そう思ったとき――
「おいおい。しけたツラしてんなよ。ちゃんと前を見ろよ。顔を上げてさ」
若い、若い男の声がした。
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