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真っ暗な街の中を一台のバイクが音を切るようにして走る。
結局凛は、何も言わなかった。混乱しているのか、それとも、まだあいつが関わっていると考えているのか。傑にはもう分からない。
傑は頭がいいほうではない。どちらかと言えば悪いほうだ。だから凛みたいな秀才が考えることはよく分からない時がある。今回は、いつも以上に分からなかった。
「……なぁ。また聞くけど、どうして秀二なんだ?」
傑が問う。
しかし、バイクの走行音がうるさく、聞こえづらいのか凛はまったく反応しない。それでも傑は話を続けた。
「聞こえてないなら聞こえてないでいい。俺はさ、お前みたいな頭のいいやつの考えてることなんてサッパリだ。だから、どうして秀二なのか分かんねぇんだよ。それに納得も出来ねぇ」
傑は怒っているような口調で喋り続け、凛はずっと唇を噛み締め黙り込んでいた。
「病院に行った意味ってあったのか?秀二が犯人だっていう手掛かりを掴むために行ったのか?それとも、あの先生の死に様を聞いて、ただ気分を悪くするためか!?」
傑はもう我慢ならないとばかりに思っていたことを吐き出した。
後ろからは啜り泣くような声。
「……私、だって、分かんない、よぉ」
彼女は傑の服を掴み、震えて、声を殺して泣いた。
傑は気付いた。彼女も自分と同じことを思っていたことに。彼女も病院に行った意味も、秀二を疑う理由も、分からなかった、ということに。
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