31人が本棚に入れています
本棚に追加
傑は凛を家まで送り届けた。別れる間際に誰が凛の弟か口論になり、遅くなってしまった。
「俺があいつの弟なんてありえないだろ。逆に俺はあいつのお兄ちゃん的な存在だろ」
あきらかな間違いである。
だが、彼の頭の中に広がる妄想ワールドでは、彼女が『ツンデレでドジな妹』で、彼自信が『そんな妹に好かれる完璧で天才お兄ちゃん』になっている。
ここぞという時に失敗して落ち込んでいる妹を一生懸命励まし、笑顔にさせる兄。
あぁ、なんて僕は優しいんだろう……。
あっちの世界に旅立つ傑。秀二や後藤がいたら、蹴りの二、三発はくらっていてもおかしくないくらいのニヤケ顔だ。
ふと何の気無しに横を見た。
そこには、街を碧く染め上げる月があった。
「ちっ。こんな日に限って、月がいつも以上に綺麗に見えるとはね……」
月に照らされ、碧い化粧をした高層ビルが立ち並ぶ中央街。
月にとどくようにして、街一番のタワーが伸びている。タワーの先端は、傑の位置からはちょうど月の中央にきていた。
「……ん、なんだあれ?」
先端に"何か"がとまっている。
バイクを停止させ、それが何なのか確かめようした。ガードレールに上り、その"何か"を見つめる。
タワーとの距離は、そんなにも離れていない。
が、その"何か"の背後に月があるため、傑からは"何か"をはっきりと見ることはできない。
しかし、"何か"の体の一部が見える。というよりも、光っている。それは黄金のような鮮やかでインパクトのある色をしている。
金色のそれはギョロギョロと動き、焦点が傑に定まったその瞬間、
ゾクッ―――――!!
傑の視線と金色の目の視線が交わった瞬間、傑の全身から嫌な汗が流れ、何とも言えない恐怖が襲った。
「な、んだよ―――!」
周りの空気が重く感じられる。冷たく、異様な空気が周りを包む。
傑はゴクリと唾を飲んだ。これ以上あの"何か"を見てはいけない、早くこの場所から離れろ、と脳が警告している。
逃げろと、足に動けと脳が必死に電気信号を送る。しかし、足は接着剤がついているよかのように、動かすことが出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!