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「さぁて、仕事仕事♪――ってそうだった!中尉さん」
突然の呼びかけに驚く。何と言うか、順応性が早い。
何だ? と無愛想ながらも返事。
「早く帰りたいから中央突破しようと思うんだ。協力してよ」
――何を、言っているんだ?
やはりふざけている。頭の中がぐつぐつと沸騰していくのが自分でもわかる。
「こんなくだらないことちゃっちゃと終わらせてゆっくりしたいでしょ?」
「……貴様、ふざけてるのか?」
「いやいや。真面目すぎて素敵なことしか思い浮かばない――」
気がつけば草薙は霞の胸倉を掴み、思い切りぶん殴ってやろうと拳を構えていた。
霞はそれを見ても眉一つ動かさない。冷たく、突き刺さるような視線で草薙を見ていた。
そして、彼はこう言った。
「じゃあ、死にたいのか?」
その一言に草薙は凍り付いた。
さっきまでとは声色が違う。違いすぎる。
まったくの別人と思わせるように、冷淡で嫌というほどはっきりと聞こえる。
ふざけた印象は感じとれないし、なにより、怯えている自分がいた。
「今の状況は、悪化することはあっても良くなることはない。俺の予測だと、あと八時間もすればここは完全に制圧される」
草薙も同じことを思っていた。支援部隊が来ていればもう少し保っただろう。それでも、負けることに変わりなかった。
だが、目の前の少年は勝つ気でいる。
戦力差のはっきりとしたこの戦いに。
「死にたくない、早く家族に会いたいって本気で思ってる奴は俺に従え。やる気のない屑はここで滅べ」
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