世界の謂れ

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         ● 作戦が説明されてから三時間が経過しようとしている。 作戦開始時間まで残りわずか。 晴天を覆う厚い曇。 所々の隙間から陽光が差し込んでいるため、暗い中にも明るく照らし出されているポイントがいくつか存在している。 中途半端だが、雨が降って視界が悪くなるよりは全然マシだ。 草薙の仕事はここを本部として、各隊員に指示を与えるという単純なもの。責任は重大だがやりがいのある仕事だ。 作戦内容も目を見張るような大胆かつ、繊細なものだし、なにより霞という人格にちょっとした興味を草薙は持っていた。 草薙の目の前には霞がいて、無線機を使って別働隊と連絡を取り合っている。 細かい指示を、ひとつひとつ丁寧に教えているその姿は学生が授業の内容を友達に教えているような、そんな年齢を感じさせる光景だった。 ピピピピ、とアラートが鳴り響く。時間だ。 「時間です。  では、始めましょうか」 そう言うなり霞は無線機の電源を切り、自分の身体を抱くように腕を胸の前で交差した。 背中にグッと力を入れる。 メリメリっ、と面妖な音を立て、彼の皮膚を突き破って生えてくるものがあった。 羽。 背に広がるのは二対二組の主翼と補助翼だ。長さ一メートル半は下らない主翼が広がり、フラップが上下する。その奥には翼内式のスラスターがある。 ふぅ、と吐息を漏らし、呼吸を整えた後。もう一度無線の電源を入れ、 「それでは行きます。あとは手筈通りに。みなさん、必ず生きて帰りましょう」
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