悪ノ娘

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『あはははは!ねぇ、遊ぼうよ』 昔々あるところに 愛情を知らぬ王女様 小さな小さなその体 いつも悲しみに震えてた 初めて知った愛情は 母親や家臣などでなく 初めて会った召使 彼がやっと心満たす 初めて知ったこの感情 暖かな手のぬくもりは 誰にも渡したくはないと 静かに決意する 『誰も邪魔しないで!』 悪の華 可憐に咲く 鮮やかな彩で 初めて微笑む心から ああ彼に出会えてよかったと ある日ふとした気まぐれで 隣国へ行った召使 彼のあとをついてって 王女はただただ立ちすくむ 嘆き狂った王女様 涙で濡れた顔を上げ 小さな声で言いました 「隣国をすぐに滅ぼして」 幾多の家が焼き払われ 幾多の命が消えていく 嘆き苦しむ召使の 涙 王女は知らず 『これで大丈夫』 悪の華 可憐に咲く 狂おしい彩で 嘆き悲しむ民の声 ああ彼女の耳には届かない 怒りに狂った民衆は 王女を倒せと立ち上がる 烏合の彼等を率いるは 赤き鎧の猛(たけ)き戦士 恐怖に震える王女様 そんな彼女に微笑んで 召使は言いました 「これを着てすぐお逃げなさい」 どんなに王女が頼んでも 召使は首を振らず 優しく微笑んだまま 彼女を追い出した 『早く、逃げて』 悪の華 可憐に咲く 悲しげな彩で 大切な者を犠牲にし ああ王女は城から抜け出した 昔々あるところに 愛情を知った王女様 小さな小さなその体 いつも喜びに震えてた 処刑の時間は午後三時 教会の鐘が鳴る時間 王女と呼ばれた召使 ただただ王女の無事祈る ついにその時はやってきて 終わりを告げる鐘が鳴る 王女を見つけた召使 優しく微笑んだ 『あら、おやつの時間だわ』 悪の華 可憐に散る 鮮やかな彩で 一人残された王女様 ああ涙を拭って微笑んだ
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