3.高級マンションにて

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「そんなに言われると見てみたくなるな」  雪弥の語尾に音符のマークが見える。楽しんでいるのだろう。 「あのですね……。笑い事ではないんですが……」  エレベーターボタンを押して乗り込み頭を掻いた。  鍵を指先で回すが蓮の口からは溜め息しか出ない。  掃除をしとくべきだった、と今更になって後悔ばかりだ。  30階まで登るのにたいした時間はかからない。蓮の家は最上階にあり見晴らしだけは最高だった。  夜になれば街が小さくなり、電飾がダイヤモンドのように輝く。女性と見ればロマンチックだが―――蓮はここに女性を連れてきたことは無い。  まだ、昼間なので近所の人は仕事中だろう。本来、蓮もここに居るはずはないのだが、“体調不良”の名目でずる休みをした。 「覚悟して下さいね……」  鍵を差し込みカチリ、とロックが外れる音がする。  いつもように帰宅するが一つ違うのは雪弥が居る、ということだ。
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