1.橋の下にて

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 結果的に今は独り身な訳で、蓮はこのままでも全然問題無かった。 「やばい……時間だ」  時計の針は昼の休憩終了時刻を指していた。しかし、やはり動きたく無い。  蓮は煙草の火を踏み消して再び川に目を遣ると―――バシャッ、と川の中から天女が……。  急に現れた天女を思わせる美しさを持つ女性に蓮は息を飲んだ。  心臓が無駄に早打ちを始め、一挙一動に跳ね上がる。苦しくて、訳が分からない。  髪を掻き上げる姿も、太陽に輝く水しぶきも、心に何かを訴え掛ける。  腕の中で元気良く彼女の顔を舐める犬に彼女はくすぐったそうにクスクス笑う。微笑を見た瞬間に蓮の心臓が限界を迎えた。  ―――なんて表情豊かで愛らしい人なんだろうか? 蓮は自分が彼女に魅了された事を悟った。  
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