5.ダブルベッドの中にて

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 やましい気持ちや下心がある訳ではないのだが、分かっていても行きづらい。 「……私ね」  同じく空のベッドを物憂げに見つ雪弥めるが話し掛けてくるのに耳を傾けた。 「5歳の時から施設で生活してたの……。あそこはね? 寝る場所が無いくらい狭くて、夜は小さな子供が親を恋しがって泣くんだ。『ママ、パパ』ってしゃくり上げて……。でも……誰も聞いてはくれない。先生達はそこまでの面倒は見ないの。冬、どんなに寒くても布団は一人一枚は与えられない……。先生達は暖房が効いた部屋からそんな私達を見るだけ。…………だから、あんな布団で寝るのは久しぶりで少し落ち着かないの……」  “あんな布団”は“普通の布団”で、でも、雪弥はそれを嬉しそうに見ていた。  初めて聞いた施設の様子はどうやら普通ではないらしく、雪弥が“嫌い”と言った糸が少しだけ顔を覗かせる。  全てを知った訳では無く、それは出会いから考えれば僅かではあるが、出会ったときよりも、昼間よりも、1分前よりも近づけた気がした。
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