6.施設にて

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 朝、カーテンの隙間から僅かに差し込む光によって自然と目が醒めた。  広いベッドに別の影は見当たらない。 「蓮さんっ?!」  一晩の眠りの中、また、一人で置いていかれてしまったのか……?  どうしようもない不安に駆られて部屋から飛び出した。  しかし、予想外にも向こう側から扉を引かれたので勢いは余る。  突進してしまうものの相手はよろめきはしなかった。 「びっ………くりしました。呼びましたよね、今」  現実に蓮は生きていて自分を見ている。 「よ……良かった」  安心の波が押し寄せて目頭が熱くなる。  この人は自分を残して消えたりしない―――。  それだけの事が嬉しいなんて知らなかった。  残されたという不幸な思い出と悔しさばかりに目を向けていた雪弥が新たに発見した喜び。  好きな人が、ただ居る事の幸福。  蓮との出会いは雪弥に“希望”ばかりを与えてくれた……。  
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