6.施設にて

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 殺風景な庭に夏の面影は無い。空風が通り抜けるだけだ。 「ねぇ、雅治。ちょっと良い?」  他の子達が仲良くお腹を満たしている間に雪弥は雅治を呼んだ。  雅治だって子供ではないので雪弥の声色で緊張を汲み取ってくれる。 「雅治、私、昨日ね……良い人に会ったの。太陽みたいな人で、ちょっと雅治に似てて……大切な人。だから、その人と同じ家に住もうと思う。……こんな私を好きだと言ってくれた彼と生きていきたいから……、だから、雅治……私……っ」  一人だけ幸せになるのは嫌だ……。  だけど、この先、あんなに良い人は現れない。  きっと、今、幸せを掴まなければ二度とは出会えないだろう……。  だから―――裏切るよ、皆を……。 「良いよ、雪ねぇ。俺らの事、心配してんだろ?」 「うん……」 「これでも、強いんだ俺達は。雑草、雑草。でも、いつかは綺麗な華を咲かせて……幸せになる。世の中、見返すんだ。“誰でも幸せを掴める”って! 雪ねぇは十分に我慢しただろ? バイトして、睡眠時間削って、俺達に“幸せ”をくれて、すっげー感謝してる。次は雪ねぇの番。皆には俺が居る! 俺は雅代と皆を守る! だから……安心しろって。な?」  初めて雅治が此処に来た時、まだ小学生だった。  それが、たった数年で別人のようにたくましくなった……。  
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