6.施設にて

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「違う、と言ってます。興味本位で結婚するほど僕は馬鹿に育ったつもりはありません。それに貴方がたを“可哀相”だなんて微塵も思わない。幸せが欲しければ黙っていないで“今”行動を起こせば良い。頑張らない内から自分を“可哀相”だと価値を下げる人は……幸せになる資格は無いんですよ?」  蓮の言葉は自分の心を大きく揺らした。 「雪弥はそれだけの努力をしてきたはずです。そして僕も……。君も、這い上がりなさい、今こそ上へ……」  蓮は初めて見せた真剣な眼差しで雅治を見下ろして、骨ばった指を肩に置いた。  雅治の目は大きく見開かれて蓮に釘付けになる。 「俺も……あんたみたいに誰かを幸せにする男になれる?」  憧れの雅治の言葉が蓮に注がれていた。  蓮はにっこりと雪弥の好きな笑顔を雅治に向けた。 「もちろんです。そうだ……。今からやることが無いなら僕と一緒に会社へ来ませんか? 中学生にアルバイトはさせられませんが、僕のお手伝いをしてみませんか? 今日、人手の欲しい仕事があるんですよ」  蓮がそう言うと雅治はさらに目を煌めかせた。 「俺でも出来るのか?」 「ええ。君くらいの年齢だから頼むんです」  雅治は蓮にすっかり夢中になっていた。  なんだか……二人は本当の“お兄ちゃん”と“弟”みたいだった。
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