7.定期考察会にて

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 「今日も素敵っす」が長谷川の口癖だった。  「今日もウザイな、お前」が礼美の口癖になっていた。  「大好きっすよ」と長谷川が言う。  「あんたみたいなの大っ嫌い」と礼美が返す。  「付き合って下さい」って長谷川が申し込む。  「一昨日来やがれ」と礼美はあしらった。  どこまでも長谷川はめげないで礼美を追い掛けていた。  どこまでも礼美は冷たく長谷川を突き放した。  二人の均衡は崩れる寸前の一番安定した位置にあったのだ。  「なんであたしなの?」と礼美が長谷川に問いただした。  「貴女だからっす」と長谷川は礼美に笑い掛けた。  「こんな可愛いげ無い女より受付嬢のが素直だ」と礼美は長谷川に言い放つ。  「どんなに美しく飾った人形も、目の前の美しさには敵わないっすから」と長谷川は礼美を無垢な瞳で見つめた。  「だから、何であたしなのよっ!!」オフィスの真ん中で礼美はブチ切れた。  多分、自分の気持ちが揺らいだからだ。  「愛を見付けたからっす。貴女ほど、素直で可愛くて、護りたくなるような繊細な人は居ない……」と長谷川は暴れる礼美を抱きしめた。  皆が見ていたが長谷川は礼美が落ち着くまで力を緩めなかった。  馬鹿正直な奴が救われ、あまのじゃくが素直になった瞬間だ。  しかし、今でもとても不思議に思う事がある……。 「長谷川君は、一体礼美の何処が好きなんです……?」  毎日、けなされる日々にストレスを感じないのだろうか?  蓮は不思議で堪らない。
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