23482人が本棚に入れています
本棚に追加
「真琴」
後ろから現れたお客の自分に真琴は大きな目を見開いていた。
今年29歳の割には衰えを全く感じさせない。寧ろ若々しい。
「先輩? 食事中じゃぁ……」
「それはそうなんですけど、ちょっと頼み事があって……」
食事は恐らく礼美に取られているだろう。それに関しては特に気にしていない。
「頼み事ですか? 蓮先輩がわざわざそんな事するなんて珍しいですねぇ」
普段は誰に対しても同じくそうゆう事をする人間ではない。
性格的に自分の事は自分でするタイプであった。
「まぁ……時には人を頼る事もあります」
「そうですね。それで、“頼み”って何でしょうか?」
「もう何人前か、持ち帰れる物を作って欲しいんです」
真琴はキョトン顔を繰り出した。
「児童施設の子供に……お土産を、と思いまして。実は、さっきの少年もその施設の子なんです。それでそこの子供達は……」
蓮は思い出すだけで胸に影が出来るのを感じた。
同情……している訳ではない。ただ、屈託無い笑顔がより苦しかった。
「事情を伺ってから作る、なんて浅ましい事はしません。先輩の頼みなら、喜んでお引き請け致します。10分程度で最高のお持ち帰り弁当を用意しますよ」
話を聞いていた料理長は「任せな、蓮さん」と歯を見せて笑う。
他の人も皆それぞれに笑い掛けてくれた。
「ありがとうございます」
「御礼には及びません。デザートも作ったので運びますね」
真琴は自分の背中を押しながら柚のシャーベットをお盆に乗せて一緒に部屋へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!