7.定期考察会にて

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「真琴」  後ろから現れたお客の自分に真琴は大きな目を見開いていた。  今年29歳の割には衰えを全く感じさせない。寧ろ若々しい。 「先輩? 食事中じゃぁ……」 「それはそうなんですけど、ちょっと頼み事があって……」  食事は恐らく礼美に取られているだろう。それに関しては特に気にしていない。 「頼み事ですか? 蓮先輩がわざわざそんな事するなんて珍しいですねぇ」  普段は誰に対しても同じくそうゆう事をする人間ではない。  性格的に自分の事は自分でするタイプであった。 「まぁ……時には人を頼る事もあります」 「そうですね。それで、“頼み”って何でしょうか?」 「もう何人前か、持ち帰れる物を作って欲しいんです」  真琴はキョトン顔を繰り出した。 「児童施設の子供に……お土産を、と思いまして。実は、さっきの少年もその施設の子なんです。それでそこの子供達は……」  蓮は思い出すだけで胸に影が出来るのを感じた。  同情……している訳ではない。ただ、屈託無い笑顔がより苦しかった。 「事情を伺ってから作る、なんて浅ましい事はしません。先輩の頼みなら、喜んでお引き請け致します。10分程度で最高のお持ち帰り弁当を用意しますよ」  話を聞いていた料理長は「任せな、蓮さん」と歯を見せて笑う。  他の人も皆それぞれに笑い掛けてくれた。 「ありがとうございます」 「御礼には及びません。デザートも作ったので運びますね」  真琴は自分の背中を押しながら柚のシャーベットをお盆に乗せて一緒に部屋へと向かった。
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