8.待ち合わせにて

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 潮風が急に吹いて髪を巻き上げた。  すぐに唸りは止み、静止した空気中に浮かぶのは青いケースに嵌められたシルバーリング。 「それって……」 「どうしても形が欲しくて……。受け取って貰えますか?」  煌々と輝く結婚指輪を見てあまりの感動と信じられない気持ちで涙が溢れて止まらない。  “愛”が形あるものになりこの目に焼き付く。  自分には絶対得られない、と思っていた“家族”がそこにある。  蓮は自分の左指を支えて薬指に証を通した。  奇妙なくらいにピッタリ嵌まり元から存在するように佇む。 「綺麗……」  赤い光を受けて指輪はより輝きを増した。 「ずっと……一緒にいましょうね? 守りますから……」  初めてしてくれたような力強い抱擁が自分を包む。  他には何も要らないくらいに大きな幸せがあった。 「ありがとう……蓮さん」  しばらくは言葉が無いままに抱き合っていた。  波の音と蓮の高鳴る心音を聞きながら雪弥は幸せを噛み締めていた……。
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