9.日々の苦悩にて

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 こうしてまた、蓮の悩みの種は増えて行く……。 「もう……全部が苦悩ですねぇ……」 「へっ?」  額を冷やしに行った雪弥が蓮の独り言に反応した。  好きになればなるほどに行動一つ取っても輝いて見えてしまう。  仕事は何一つ片付かない。  また礼美にどやされるに違いない……。  彼女に煩悩されて少しずつ自分が分からなくなってきた。  これが自分の本来あるべき姿なのか? と考えた所で結局は堂々巡りに終わる。 「ねぇ、なんて言ったの?」  台所から雪弥が身を乗り出して聞いてくる。  時計が12時を回った事を鐘一つ鳴らして知らせてくれた。  鳴り止まぬ内に三度目の催促を雪弥にされた。 「貴女の事を好きだ、と言ったんですよ」  蓮はにっこり笑いを携えて雪弥に言い放つ。 「ぅ………えっ?」  これは明らかに動揺している様子の雪弥へのちょっとした報復である。  自分だけ苦しめられたのではたまったものじゃない。たまには雪弥にもこのもどかしさを味わってもらわなければ……。 「う、嘘だっ」 「さぁね……。さ、寝ますよ?」  蓮は曖昧さを残して伸びをしてベッドへ向かう。  どうせ電気は消さない。明かりは朝まで煌々としている。  どうせ今日も寝られはしないけれど、とりあえず横たわる。  体を休める為のベッドは今では寝られない夜を過ごす為の場所に代わった。 「寝不足も怒られますね……」  蓮は目を閉じてそう呟いたのだった。
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