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 そもそも、今何故私はこの全くの赤の他人である男を部屋に上げているのだろう。大体、何故この男は私の部屋の前に蹲っていたのだろう。しかもびしょ濡れで。  確かに今日は午後から雨だったけれど、傘ぐらい持ち歩くだろう。 「ねぇ、裕子、寒い」  彼はまるで濡れた子犬が飼い主を見上げるように私に向かって言った。 「知らないわよ、てか何で私の名前知ってるのよ。しかも初対面で呼び捨てとか……」 「そんな捲し立てなくても。名前はさっき表札見たから。呼び捨てにしたのはごめん。裕子って呼んでいい?」  この男、あくまでマイペースらしい。しっとりと濡れた髪からぽたぽたと水滴が落ち、フローリングの床に水たまりを作っている。これ以上水たまりが大きくなるのは嫌なので、彼に向かってバスタオルを投げた。 「それ貸してあげるから。ついでにお風呂も使って良いからさっさとその水たまりをなんとかしてくれないかしら」 「裕子って優しいね」 「早くしないとびしょ濡れのまま追い出すわよ」 「はーい」  浴室に消えた彼を見ながら、いくら何でもお人好しすぎだろうと自分につっこんでみる。いつまでもそうやって浴室の入り口を見ていても仕方が無いので台所へと向かう。冷蔵庫からビールを取り出し、そのまま仕事と突然の出来事でクタクタになった体をソファへ沈めた。
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