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ぼーっとした頭に冷えたビールが刺激を与える。それから彼の着替えがない事を思い出した。
何時だったか突然泊まりに来た弟の衣類一式が確かクローゼットにあったはず。ビールをテーブルに置き、クローゼットを探すと、奥の方にジャージがあった。それに新品の下着。
新しいバスタオルと、クローゼットから出してきた弟のジャージを抱えて入った洗面所には綺麗に畳まれた彼の衣類があった。浴室からはシャワーの音がする。私は少し遠慮してドアをノックした。
「着替えとタオル置いておくわよ。あんたの服は洗濯するからね」
「さんきゅー」
しばらくして出てきた彼。弟のジャージはぴったりとサイズが合っていて、少し驚いた。
「お風呂、ありがとう。これ、彼氏さんの?」
彼は右手で髪を拭きながら、左手でこれ、とジャージを摘む。
「弟のよ」
「そう」
そのまま彼は私をじっと見つめた。「何?」と尋ねると、「別に」と返事をする彼。
「そ、そう言えば私あんたの名前聞いてないわ」
「あれ? そうだっけ」
「そうよ」
「僕は翔」
「ショウ?」
「そう。飛翔の“ショウ”」
私は今日、この翔と言う男と出会った。
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