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彼が髪を乾かし終え、静かになった部屋にはカチカチと時計の音が響く。
「あんたうちの前で何してたの?」
沈黙に嫌気が差して、私は彼に尋ねた。
「何って……雨宿り?」
「何でうちの前なのよ」
「さぁ……偶々?」
私の方をじっと見たまま、彼は「さぁ」と首を傾げた。偶々私のアパートの何も私の部屋の前でわざわざ雨宿りをしなくたっていいだろう。
「これからどうするのよ」
時刻はもうあと三十分で二十三時だ。最寄り駅から電車に乗るのだとすると、もううちを出なければ終電には間に合わない。近くの家だとしても、外は雨だ。しかも土砂降りに変わっている。
「どうしよう」
「うちどこなのよ」
「桜ヶ丘」
「……二駅も向こうじゃない」
こんな時間じゃタクシーも頼めない。そういえば、彼は荷物を持っている様子は無かった。
「ねぇ、手ぶらで雨宿り?」
「あ、どういえばそうだ。あれ、僕財布……?」
私がお風呂へ行った後に洗濯する予定だった洗濯物をひっくり返すと使い古した彼の財布が出てきた。
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