追憶

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優しいあなたは、誰よりも人が傷付くことを嫌っていた。 人が傷付くことより、自分が傷付くことを選んだ。 でも、あなたは……そんなに強くはない。 弱いあなたは抱えきれない闇に、飲み込まれそうになっていた。 そんなあなたを、支えたかった。 だから、私はあなたの側にいた。 誰よりも優しいあなたを愛したの。 澄んだ瞳から涙を落とすあなたを、私は優しく包み込んだ。 あれが、最初で最後の私の素直な愛情表現。 私は、本当にあなたを愛していたの。 あなたの優しさに、温かさに、言葉に、行動に……。 弱くて、馬鹿なあなたを愛していたの。 あなたの全てを愛し、甘えていたの……。  戦争が始まった時、あなたは志願兵になることを決めたよね。 軍隊に入ることを私に伝える時のあなたの瞳は、とても澄んでいて、止められないことが解ったの。 弱いくせに……、馬鹿なくせに……。 「愛する人達のいるこの国を守りたい」と……。 「行かないで」の想いは、涙になったけど、言葉にならなかった。 私はあなたを止める術を持っていなかった。 .
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