追憶

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 初めて会った時、あなたは淋しい瞳をしていたよね。 無表情で、焦点の合わない瞳は空を写していた。 私はそんなあなたに目を奪われて、……声を掛けた。 私の瞳に写るあなたが、あまりにも儚く、幻のように見えて……。 存在を確かめるように、声を掛けた。 あなたは一瞬驚き、優しく温かい笑顔を作った。 嬉しそうな笑顔を、私に向けた。 私はその時から……、心をあなたに奪われた。  やがて私達は言葉を交すようになり、会う回数も増えていった。 次第にお互いのことも話すようになったよね。 私があなたに惹かれたように、あなたの心には私がいたんだよね? だから、あなたの辛い過去を、私に見せてくれたんでしょ? ずっと虐待を受けて育ったこと、貧困であることへの酷い差別、自殺を考えていたこと……。 あなたはただ、「愛」を求めていただけなのに……、世界は冷たくあなたを突き放した。 あなたの頬を伝う涙は、とても綺麗で汚れがなかった。 馬鹿なあなたは、誰かを恨む術を知らず、傷だけを背負ってばかりで……。 いつかくる「幸せ」を信じていた……。 .
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