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苦しいくらいに引き寄せられて、ことごとく抵抗をもぎ取られる。
「んっ……」
奪われた吐息の隙間から、言葉にならない声が漏れる。
(なっ、こいつ……! 本当にやりやがったっ!!)
叫びは心の中に留まったが、冬子は不意打ちの出来事に速まる鼓動を何とかしようと抵抗し続けた。
密着していては、伝わってしまう。
けれど、長い髪を絡め取りながら首筋をくすぐる指先はひんやりとしていて、吐息は熱を帯びて触れ合ったままだ。
意思に反して身体の力が抜けていく。
今、冬子の身体を支えるのは、小憎らしい男の腕だけで、離れられたら、しばらく立ち上がることはできない。
ちゅっと音を立てて額に口唇が触れて、冬子は俯いた。
「風邪ひくから、場所、変えて話そう。冬子」
鼓膜をくすぐる囁きが、根こそぎ力を奪う。
こんな男に。
雰囲気に流されて思わず胸に頭を預けそうになって慌てて離れようとするのも束の間。
「ひゃっ、ちょっ、なっ、えっ……」
不意に身体が浮いて、冬子はうろたえながら真近の千優を見上げた。
軽々と抱き上げる千優の表情に変化はない。
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