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あくまでも低姿勢で礼儀正しい。整った顔立ちが造り出す笑みは、造り物みたいで、けれど、彼を取り巻く空気は、穏やかな海の様に落ち着いていた。
それが、第一印象だった。
「灰皿、一緒に使っていいですか」
一口目を吐き出して、冬子はテーブルの中央に灰皿をスライドさせて黙々と煙を吸っていた。
「ありがとうございます」
霧の様に煙が二人を隔てる。
当然、会話もなく、チリチリと燃える火が時を語った。
冬子の瞳に映る真っ黒なYシャツ。手を伸ばした時にチラリと覗く手首には、ゴツゴツとした腕時計。
それが、無駄な肉のついていない手を細く、男らしく見せた。
長い骨張った指の間に挟まれた火が、瞬く間に灰になっていく。
指の股に近い場所に持ったまま、口許を押さえるような仕種で止まり、ゆっくりと息を吐く。
誰もがその姿を男らしいと言うだろう。
様になり過ぎて、厭味な程。
鼓動が跳ね上がって、冬子は席を立った。
「片づけますから、いいですよ」
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