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講義室を出てすぐの所に背中を預け、遠回りして帰るか、家の近くまで一本で帰れるバスを待つか迷っていた。
走っていけば間に合わないこともない。
あとは帰るだけなのに、急ぐ意味がないと思うと、必然的に一本遅いバスに乗ることになる。
けれど、待つということは、あの男に会う可能性がにあるということ。
今から息を切らして、すし詰め状態のバスに揺られるなど、拷問に等しい。
究極の選択に悩むところではあるが、徳永 千優にだけは会いたくないと、冬子は出口に向かった。
(雪も溶けたし、中庭ウロついても凍えることはないだろ)
玄関先に吹き込む強風に髪を掻き上げ、目をつむったまま歩く。
空は夕闇。舗装路を外れ、進んでいけば広場があって、向かって右奥に二本の木に挟まれれるようにベンチが置いてある。
風が凪ぐと、あまり寒さを感じない。
腰を下ろして冬子は短く息を吐いた。
ある日、突然現れた男に気持ちで振り回されている。
偶然を装っているのか、それとも意図的なのか、この一週間を思い出して、無駄に疲れたと冬子は深い溜め息をついた。
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