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相席しただけの男の言葉など、信用できない。
「仕方のない人だな……」
今度は千優が溜め息をついて、冬子の肩に手を乗せた。
鋭い瞳が、何も言うなと語っていた。
「後ろの木の影に男が隠れてます。覗き込まないで、俺を見つめるフリをして見て下さい」
暗くて顔までは見えないが、陰気な空気を纏った男が木から三分の一ほど身を乗り出して二人の様子を伺っていた。
「覗きか、あれは」
「その前に、名前、教えて下さい。でないと、足腰立たないくらいのキス、ぶちかましますよ」
冬子にしか聞こえない囁きは、嬉々としていた。
千優の笑みに、冬子の背中を得体の知れないものが駆け抜けていった。
そんなものぶちかまされるくらいなら、素直に教えた方がはるかにマシだと思いながら、渋々、答える。
「木崎……冬子」
「ケダモノ呼ばわりされる前に聞けてよかった。お願いですから、口裏合わせて下さいね。冬子さんの為なんですから」
「なっ……! ふざけんなっ!!」
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