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背中に回ってきた腕を、冬子は反射的にはねつけた。
「冬子」
「名前呼ぶな。あんたのお遊びにつき合う程、暇じゃない」
面倒なことこの上ないと、冬子は歩きだす。
「冬子さん、話、聞いて下さい」
腕を掴まれ、踏み出そうと上げた足は、地面に逆戻りした。
簡単に振り解けない力。
百八十を越える長身に見下ろされ、冬子は息を呑んだ。
「話すだけ無駄。さっきから質問に答えてないだろ」
「それは、あとでちゃんと説明しますから、冬子さん、今は冷静になって……」
ひょろひょろしてるくせに、何だ、このバカ力は……と、冬子は眉をしかめた。
「話なら此処でできるだろ。これは新しい遊びなのか。この顔見りゃ嫌がってるのわかるだろ。一週間も前から狙いすました様にあ……」
言い終えないうちに冬子は言葉を呑み込んだ。いや、呑みこまざるを得なかった。
初対面の時と同じ真っ黒なYシャツが視界を遮る。
腕が首に絡みついて、身体は引き寄せられて、身動きが取れない。
もがけばもがくほど離してもらえない。
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