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「あんたにだって、羽織作ってやったやないか。なんや、不満か?」
本格的な冬が到来する前に、薄雲は三人の部屋子に自分の古着で羽織を作ってくれた。
綺麗な藍色の羽織は着るのが勿体なくて、お玉だけ袖を通せずにいた。
不思議に思った薄雲に色が気に入らないのかと問われ、「着るのが勿体ない」と答えたら「着らな価値は無いやろ?」と笑われたのだ。それからは汚さないよう大事に着ている。
「不満やないよ。嬉しい」
フフッと頬を染めて笑うお玉に薄雲は目を細めると、座布団の上でまだ寝ている猫の横に腰を下ろした。
足音を立てないようソロリと後をついてくるお玉に背を向けたまま、薄雲はコロコロと鈴の転がるような声で笑う。
「ほか、ならえぇやないの。タマに玉が嫉妬して、冗談にもならんわ」
「猫と同じ名前やなんて、なんか変な感じや」
猫の方が先にいたせいで、自分の名の方が猫の名を真似たような気がしているお玉は不満に口を尖らせた。あまり自分の名を気に入っていないのだ。
「可愛らしい名ぁやないか。それに、私もネコて呼ばれよるんよ」
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