いつかきっと…(結審~確定)

7/51
前へ
/1084ページ
次へ
「何で警察に出頭する前にわしのとこにこなんだんかの…相田は…。」 その言葉は、怒っている風ではなく『残念でならない』と言った風だった。 私は少し驚いて顔を上げた。 吉村社長は険しい顔をしていた。 でもそれは、怒りに歪んだ顔ではなかった。 「確かにあいつのしでかした事は許せん。 でもこうやって話が出来とったらの…。」 吉村社長の声が静かに響く。 ついたての向こうから、事務員がお茶を運んで来てくれた。 吉村社長は、私に座るよう、ソファーに手をかざした。 私は一礼して、前の方に少しだけ腰を下ろした。 「あいつの仕事ぶりはよぅ知っとる。やからうちの会社に誘ったんや…。」 吉村社長は、まだ熱いお茶に手を伸ばし少し口をつけてまた置く。 「申し訳ありませんでした…。」 私はそれしか言えなかった。 「手紙…読んだわ…。」 私は少し心が軽くなった…。 慶太の気持ちを知ってもらえた…。 それだけで悔いはない…。 涙が出そうになる…。 「んで?京谷さんはどうするつもりなんぞ?」 優しい聞き方をする吉村社長の顔を、今度は目をそらす事なく見つめた。 「相田さんを支えて行きたいと思ってます。」 事情聴取の時 品川刑事に 『相田を待ちますか?』 と聞かれた時は、すぐに答える事が出来なかった。 でも今ならはっきり言える…。 世間では何と思われても構わない。 慶太を待っている…。 吉村社長はじっと私を見つめ、ふと表情を緩ませた…。 「あいつが出て来たら1番にわしのとこに来いとゆうとってくれ。」 「伝えておきます…。」 私は強く頷いた。
/1084ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7362人が本棚に入れています
本棚に追加